走る、走る、俺は自分でも信じられないほど速く走っていた。誰かから何かを奪ったわけでもなんでもない。全てから逃げ出してしまいたいと思った。街が見下ろせる坂の上の丘に着くと汗だらけだった。
「大丈夫?」
女の人の声がした。真っ白なワンピースを着ていた。俺はどうしてかその無力な女の人すら怖いと思った。女の人は「全て知ってるの」とでも言うようにゆっくり笑った。キレイだと思った。怖さが少しずつ溶けて半ば無意識に地面に座った。
「すごい汗だけど何かあったの?」
女の人は地面に座った。ワンピースが地面いっぱいに広がった。広がったその生地が透けそうなくらい薄くて光に反射してキラキラしていた。
「全部、捨てたくなった。」
「そう。」
女の人の声が俺を高ぶらせる。もっと話したい、話して楽になってしまいたい。この人をもっともっと知りたい。引きずりこまれていく感覚を身体のどこかに覚えた。抱きしめられているような、腕の中にいるような。
「名前は?」
「」
「エドワード」
差し出された手を掴もうとの手に触ると嘘のように冷たかった(俺が熱いだけかもしれない)。と思ったらはどこにもいなかった。
「?」
単純で直線的なアールデコの様な衝動は遠くに消えて行った。
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