隣の部屋から声が聞こえた。高くなったり低くなったり混ざり合った声も何回か聞こえた。激しいなと思ったその次の朝の光景に私は目を丸くした。よく知っている人間が隣の女の人の部屋から出てきた。私に見られてるなんて知らずにのこのこと。きっとカメラマンの才能があるんだわ、なんてバカな事を考えながら私は隠れた。マンションの螺旋階段に座って煙草を吸う事が私の一番の幸せだ。誰にも邪魔はできない、させないはずだったのに。こんなに小さな幸せを誰かが崩しに来る気がした。

「もう帰っちゃうの?」

「また来るよ。あまり人に見られないほうがいいだろう?」

ああ、残念だけどもう私が見ちゃった。軽く別れの挨拶と朝から夜の様なキスにドアの音にだんだん足音が近づく音が聞こえた。もう、立ち上がる気にも隠れる気にもどうする気にもなれなかった(何よりも逃げ道なんかなかったの)。何ひとつとして心配することなんかない。怖いことなんか何もない。距離ならまだまだたくさんあるから、だから。螺旋階段に響く聞きなれた靴の音。

「おはよう、昨日はうるさかっただろう?悪かったね。」

「・・・本当にうるさかったです。」

怖がらなくても大丈夫。手がものすごく震えてるけどそんなの気にしなくてもいい。

「やっと見つけた。」

私の耳の近くで低くゆっくりそして小さく囁いた。私の手に触れてそれを取り上げた。

「あなたって最低な人。」

「これも愛が成した業だよ。」

バカバカしい。これが愛なら他のどんなものだって愛になれる可能性を持っている。これが愛なら私は愛を信じない。ああ、誰かこの時間を昨日まで戻して私を殺して。



Addicted to you.

(050529)