ここはどこだろう。目の前には川があって後ろには空虚な世界。前の世界は変わった色をしている。前にもこんなに優しい世界を僕は見ていた気がした。「アル!」と、向こうからが川をジャブジャブと走って来た。真っ白なワンピースをなびかせて浅い川を渡って来る。抱きしめた久しぶりのはひどく冷たかった。
「、どうしてここに?」
「夢だからよ。」
どうやらは、人魚にはなれなかったらしいけどここは夢の中だっていうことはどうしようもなく確かな事らしい。これが現実ならよかった。
「に追い着きたいとずっと思ってた。」
君がいなくなってから僕は、今だけはやめておこう。ようやく会えたから。でも本当に今嬉しいんだよ、この川なんかきっと簡単に泳げるって錯覚するくらい。
「アルはまだ生きてる。私は向こうまでこの川を歩いて行けるけどアルは川の深さに溺れちゃう」
の立っている場所は足首くらいまでの子供でも簡単に渡ってしまえるくらい浅いのに、僕がすっと目線を下に向けるとそこは真っ暗な夜の色が広がっていた。
「私は向こうの陸には上がれるけどこっちの陸には上がれないの。大好きよ。向こうに連れて行きたいけどまだこないで、まだ来たらダメなの。」
は僕から離れて顔を隠した。小さく肩が小刻みに震えていて「ごめんなさい。」と言った。しっかり聞こえたのはそれだけ。何度も何度も泣きながら僕に謝った。もういいんだ。もう。
「、愛してるよ。」
涙を拭いたら、は心配そうな顔で僕を見つめて優しくキスをして抱きしめた。やっぱり冷たい。ここは今じゃないんだよね。
「振り向かないで戻って。そうしたらあなたは私よりずっと大事な人が見つかるから。あなたは一人じゃない、大丈夫。私ずっと見てるから。愛してるから・・・!」
ノイズがかかったように切れ切れに聞こえる声を拾うことに僕は必死になった。そこにいるのに、向こうまでだって渡って行けそうなのに。
「次も僕を迎えに来て。僕の最後はが迎えに来て。」
ここで僕の夢は終り。僕はあの川を渡れるようになるまで生きようと思う。重すぎるの分を背負いながら迎えに来る日を心待ちにして。
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