そろそろこの感情には限界が来たのだと思う。
何を見ても、何に触れてももうどうでもいい。
男に抱かれているときですら何の意味を持たない。
疲れた。というよりはもうむしろ廃人寸前。

(死にたい。)

今になればあのころのうまく笑えない私は、綺麗に笑えていた。
大してうまくない抱かれ方も今になれば意味を持つ。
はだしで立っていた床は冷たかった。
そこに寝転んだら気持ちがいいと思った。
うつ伏せよりあお向けの方が良かったかもしれない。
何も残っていないことに気がつく。
手を伸ばせばそこには刀があった。
何故か薄い目で空ろにそれを見つめながら手を伸ばした。
指先がそれに触れてしまえばもうそこから先は永遠だと思った。
カランと音がして思考はすぐに遮られた。

吉良君は私の上に静かに覆うように抱きしめた。
不感症なのかもしれないなとどこかで思った。

「どうしたの?なんでいるの?」

「なんでも。」

そんな答えは望んでないんだよ。

「蒸発しそうだったから。」

「蒸発なんかできないよ。遺体だけ残るよ。」

蒸発という表現は新鮮だった。
さっきよりもずっと遠くにある刀。
手の上に静かに重なる手。
骨が出っ張っている手。
綺麗ではない私の手と一つになる。
きっとこれは意味を持つ。そう感じた。

。」

この声が愛しくて、目を閉じた。