私は、本当にほんの少しまでは昔の本で読んだようにキレイな世界をずっと思い描いていた。描きながらもどこかで嘘だと知っていた。だけど今、私はそのきれいな世界を切望している。
もしも人を殺してそこに行けるのだとしたらそこに行こうとするだろう。でもどこにもいけないその矛盾とに私は縛られている。誰にも言えずに誰にも言わずに生きるつもりだ。常に自分が最前線で。
「。」
「何でしょうか?」
「あの花を捨ててくれ。匂いがうっとおしい。」
花を手にするとまだまだキレイでいられる。私とは違う。似てるのは、あまりに無価値な存在。
「キレイ。」
そう呟くと睨まれてその視線に笑い返すとまた睨まれた。早く捨てなくちゃなと思うと、彼は立ち上がっていた。
「。」
「何ですか?」
「無いものねだりをしてもここでは手にはいるわけがないだろう。」
ぐっと胸がつっかえて花瓶を落としそうになる。汗が出る。冷や汗なのか知らないけど。私は、花係ですか?違うでしょう。学生時代のちっぽけな決まりじゃないし。
「そんなに何か欲しそうな顔してましたか?」
「私は、ただ憶測を述べただけだ。」
「素敵です。本当に。」
皮肉たっぷりにそう言うと、「・・・花を捨ててこい。話はそれからだ。」
花を捨てて戻ると彼はどこにもいなくて空虚感を味わうのには十分だった。彼はきっと私とほんの少しだけにている。窓を開けると風が強くて、紙が舞い上がったのをなんとなくキレイだと思った。バサ、バサ、バサと落ちていくその音はとても聞きたくないがキレイだと思う。キレイ。光がチラチラとして何もかもを照らしつけていた。キレイ。こんなものをキレイと思うのに空をキレイだとは思ったことが無い。
空 に は 彼 が い る か ら だ 。
彼がいつでも私が悪い事をしないようにと見ているのだ。そう思うと少し笑える。
"こら、。朽木隊長に怒られても知らないぞ。早く片付けろ。"
"そんな顔してないで笑わないとダメだろ。"
きっと説教ばかりが空から降ってきている。その声が聞きたくてたまらないのに無色の世界が視界を奪い聴覚を失わせた。私はきっともう死んでいる。廃人寸前だ。声をあげても届かない声に怒りを覚え、泣いても枯れる事のない涙に苛立ち、そうして出来上がった世界を。
「一つ何かをすれば一つまた手を煩わせるのだな。」
「片付けます。すいません。」
「・・・忘れても、もういいんじゃないか。」
「知ってるんでしょう?いいんですよ。いらない気を使わないでください。そのほうが楽ですから。(もうこの世界の色にはなれました。無色なんです。ねぇ、隊長。)人はどうせどこかで他人なんだからそれなら関わりあわなくたって生きていける生き物だと思いませんか?よく人は一人では生きれないなんて言いますけどきっと嘘。それはいいわけでどこかで一人を渇望しながら何かを待ってるんです。」
クシャッという音がして紙が隊長の足の下にあるのを黙って見ていると高いところから声が聞こえた。
「それでも、生きてはいける。」
それでも生きていけると言った隊長は私の手を強く握った。
私はどうすることもできずに空にいるあの人を想った。
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