あなたは毎日確かに私の目の届く範囲にいるわ。でもね、それがそのひとつが私を動かす。もう絶対どうにもならないと思ったってあなたは動かす。例えば一回だけあなたが私にキスをしたとする。前の気持ちを押し出される。何かがスタートして走り出して身も心も疲れ果てさせてしまう。終りはまったく見えない。私とあなたが別れた日から一ヶ月がすぎようとしていた。
「さぞかし、満ち足りた日が送れているのだろうね。」
「藍染隊長には関係ないですよね。」
二人きりになった途端にあなたの口から聞いた言葉に私は苛立ちと、悲しみとを同時に覚えた。それは言葉になって現れた。でもそれはほんの少しあなたの気持ちを揺らしただけだった。どうしてこんな人にああ、落ちていく。
「落ちていくだけです。」
「素晴らしい比喩(たとえ)だね。」
「どうも。」
もう一度なんて在って良いわけじゃない。どうして私を抱くの。どうして私にキスをするの。どうして私の背中に手をまわして自分との物質的な距離を近づけようとするの。どうして私はあなたを愛したの。あなたは私に「君が望むならそれでいい。」って言ったはずなのに私はそれを信じたし望んだ。それなのに、そんなことをするから私はただひたすら落ちていく。
「落ちる感覚を知ってますか?」
「知ってるよ。」
もう一度私はあなたに落ちた。深く深く息を吸い込んだ。もう私は何も欲しくない。あなたがいたら私は生きられる。ああ、落ちていく。
「そんなこと僕は絶対に認めない。」
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