巡る毎日に忠実に共に歩む僕らには少しだけ残酷な話だ。そうだ。僕らは何もしていない。君のことはよく知っているんだよ。本当に何もかもよく知ってる。毎日が同じ日だ。変わらない世界は色づくことすらも忘れているのだから。
「どうして私を描こうと思ったのか教えて?」
「さて、どうしてだろうね。」
裸体の女性を描くのは芸術家の太古の昔からの習性なんだと誰かがどこかで言っていた気がする。でも僕が
を選んだのは子供のように単純な理由。窓の外を見るために首を動かした君。
「
、動かないで。」
「ごめんなさい。」
すぐにその首を元に戻した。大丈夫、そんなに心配しなくても彼は今晩は君とも昨日の女性とも違う別の女性のところにいるから。キャンバスに描きこむ音だけが聞こえる。髪も輪郭も唇も胸も手の先ですら何一つ見落とすものかと。髪の流れ方や目の光、写真よりもっと忠実に。朝から始まったこれはもう日が傾きかけた頃に終わった。僕が手を洗いに行くと"もう、動いてもいいの?"と聞こえて僕はYESと答えた。
「できたよ。みるかい?」
「ええ、見せて。」
そのままの格好で、ソファーに座った僕の真横に来た。の腰に手をまわして近づけて軽くキスをした。丁度、見えるようにさっき僕が方向を変えておいた。
「上手に描くのね。」
「ありがとう。
のおかげだよ。」
もう用意は出来た。キスをして、肌に触って、あとはこっち側に落としこめばそれでいい。何も心配しなくていい、既婚者だとかそんなことはもう何も。あの男は君のことなんか全く気になんかしてない。、君は僕の下でただ喘いでくれればいい。できれば愛してくれたらいい。
「こんなことしていいの?」
「僕はずっと君を愛していたんだから許されるはずだよ。」
両手で顔を覆い隠したその姿は小さな子供のようだと思う。抱きしめると声をずっと遠くで押し殺しながらすすり泣く声が聞こえた。
「ねぇ、
。あの男はこんなに優しく君を抱く?」
ほら、真っ白なキャンバスはもう見れないくらい真っ黒になった。
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