「退いて下さい。」
「嫌や。だって退いたらは僕の話聞いてくれへんもん。」
ちゃっかり鍵までかけて言う言葉じゃないと思う。ドア、私、隊長。逃げ場なんかない。安いお酒を浴びるほど飲んだときの酔い方をした気分になる。
「なぁ、僕ずっと気になることあったんや。」
「なんですか?」
逃げることはできない。細い骨張った手に捕まった。私の輪郭を包んだ手は相変わらず冷たかった。思い出させないで。
「どうして僕を捨てたん?ちゃんと答えて?」
甘ったるい言葉と声と体温に溶けてしまいそうになる。白昼に何をしてるの?現実に戻らないと大変な事になる。また戻れなくなる。耳元で囁かれて次にほんの少しの痛みが走った。どれくらいの時間がすぎたんだろう。どうして解放してくれないんだろう。
「・・・殺して欲しかったから。」
少し驚いたのか行動を止めてまた続きを始めた。
「殺して欲しい?」
「今は嫌。」
あの頃は全部が嫌できっとこの人ならば迷いなく殺してくれる。毎日のつまらない繰り返しを終わらせてくれる。そう、思ってた。それなのに虚しい痛みだけが私の体に蓄積した。
「僕、の知らへん遠くに行くんや。」
「うん。」
「だから今だけ最後にゴッコ遊びして。」
遊びで終わるはずがない。私はまた虚しい痛みを体に蓄積させるの?でも拒む事なんかできない。私はギンの身体に応じるだけ。私はギンの輪郭を包んでキスをした。息も出来なくなりそうだよ。ぐちゃぐちゃになればいい。私もギンも。
全てが溢れだす。
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