あの人の隣には闇があった。気まぐれに人の心を覗き込んでは、激しく揺らして何の責任も持たない。そう、いろいろな意味で人の行動をとてもよく知る人。

「強い子だ。あなたなら大丈夫。」

言葉なんて安い小説の一文のようだった。安っぽい一言一言を私は信じた。愚かな事だって承知の上でね。大きくて骨ばった手が大好きだった。私の快感を創りあげていく。それも恐ろしいほど丁寧に、綺麗に完成させる。

「あなたなら大丈夫。」

「何が?」

「きっと私を忘れないでしょう?」

酷い人。自分の歩んだ軌跡を見せつけて、私の脳裏に焼き付けていたんだ。気がつかずに側に居すぎたみたい。でも、それでもいいと思ってしまった。

「私もあなたにありったけのものをあげたでしょう?お返し貰わないと損じゃないですか。」

「私、損してるじゃないですか。」

そう言うと私の口を閉じるかのように上の唇にキスをした。

「損なんかしてませんよ。私もあなたもね。」

あなたが罠だともっと早く気がついていたのなら私は、もっと息が上手に出来ただろうか。あなたに創りあげられる快感の途中でそう思った。あなたの背中に私の爪がくい込んでいく感触・・・!





子供騙しの罠




(060213)