もし、あたしが社交的で貼り付けたように笑う人間だったらあたしはあなたに好きになってもらえたかな。まぁそんなことを考えたって仕方がない。檜佐木副隊長はあたしの仕事を手伝ってくれた。一人じゃ終わらなかった。ようやく終わって時計を見る。女の子が一人で帰る時間でもない。急ごう。早く帰ろう。

「帰ります。本当にありがとうございました。」
「じゃあ、ついでに送ってやるから。」
「別にいいです。」
「俺が送りたいんだよ。」

 あたしの心臓をまた壊すの?手を引っ張られて後ろ姿を眺めて歩く。もしかしたら、駆け落ちなんて考えすぎだね。二人なら怖くはないよ。

「このままさ、行けるとこまで行かないか?」

 突然の恋愛ごっこが非行ごっこになっただけだね。あなたの悪ふざけとあたしの考えのデジャヴ。あたしは握っていた手を離した。それでもあなたは離してくれなかった。

「・・・あの!」
「歩け。前に進めない。」

 チラッと、本当に少しあたしに目を向けて言った。どうして、あなたの目はそんなに冷たいの。

「嘘。」

 離された手の狡猾さと無頓着さに涙が溢れそうになった。これはどこまでも平行線。泣くことも笑うことも許されない。離された手をあたしから繋いだ。確かに握り返されたあなたの手の暖かさ。



(060906)