私は思いきり口唇を噛んだ。痛みに顔を歪ませた隊長を見てひどい事をしたんだなと他人事の様に思った。

「あんたが悪い。」

「そやね。僕が悪い。」

 隊長は口唇の赤い血を指で拭う。私は手を握っていた。手の中が汗でどろどろして気持ち悪い。逃げる準備はいいかい?未練はないかい?えぇ、バッチリよ。
 隊長は私の髪が揺れたのを見逃さなかった。腕を掴まれた。顔に比例しない力だった。

「泣きそうな顔したらあかんのよ?」

 机がガシャンと音をたてた。嫌だ。こんなの正しくない。

は、いつもそ。自分で仕掛けて逃げるん自分。仕方あらへんね。だって誰だって自分が一番可愛いんや。」

 正当防衛だった。じゃあどうしてあんなことしたのよ。仕掛けたのは隊長だったはずなのに。私のすべてを汲み取った様な隊長の声がした。






「でも、許さへんよ。」