消えたあの煙はどこにも、もう見えなかった。
あの人はどこにいったのだろう。
私の大切な人はいるはずなのにもうどこにもいない。
あの人はどこにもいなくなってしまった。
けれどまだいる。
絶対に。
探せばきっといる。
あの腕も、あの微笑みも、あの温かさも、あの愛しさも。
きっと、全てがきっとある。
私はまだあの人を思いながら、いつもいろんな場所を見ている。
公園も、草花も。
あの人のいた、美化したキレイな思い出しかなくて何か込み上げる。
込み上げてくるものが何かはわからない。
わからないけれどいつの日かわかるとき私は私ではなくなるんだろう。
あの人はいた。
あの人は、どこにもいないあの人はいた。
「帰ってきてよ。」
空虚。
「・・・あ。」
涙がこぼれ落ちるととどまるところを知らなかった。
雨が降った。
夏
の
日
「弟思いのいいお兄さん。」
「・・・歳が離れているから。」
苦し紛れの言葉をいつも言う。
その言葉を聴くたびに心に闇が広がる。
「無理しないでいいよ。私知ってるから。」
言葉にしてしまうと何か逃げていきそうだった。
遠くに、遠くに。
「・・・バカな女だとつくづく思う。」
「なんか思ってくれて良かった。」
一番聞きたい事を聞こうと思う。
これによってこの関係があっけなく崩れてしまうとしても。
「地位の高さと心の広さどっちが欲しい?」
「どっちもいらないよ。」
壊れはしなかったけど私の中には何か彼を避けるものが生まれた。
「あげられないけどね。」
「もらえるとは思っていないよ。」
彼が近くて、笑った。
笑うと不思議そうな顔をしたから、少しだけ嬉しかった。
「・・・」
「今日は暑いから、キスは一回ね。」
キスをした。
もしも、これが誰かに見られていた時に、私は彼を嫌いにならないであげられるのだろうか。
涙がこぼれ落ちるととどまるところを知らなかった。
雨が降った。
消えたあの煙はどこにも、もう見えなかった。
あの人はどこにいったのだろう。
私の大切な人はいるはずなのにもうどこにもいない。
あの人はどこにもいなくなってしまった。