彼がいなくなるようで嫌だった。それを聞いた時、彼の他の教え子はものすごく喜んでいた。私は違った。彼が私の手の届かないところに行ってしまう様でとてもじゃないけど喜べなかった。こんな自分は本当に嫌になる。彼はそんな私に気がつくはずもなく、全てに「ありがとう」と笑っていたけど。もう今更何を言ってもただの願望に成下がっていく気すらした。教え子達が祝杯の言葉を残して帰っていく。と言っても多くないんだけど。私はその場に気持ち通り一人残される結果になった。


「ねぇ、先生。先生はもう火影様になるね。先生って呼んだら怒る?」


「怒らないよ。」


「先生が火影になるんじゃないかって私は思ってたよ。でもものすごく嫌だった。先生がもうどこにもいなくなる気がして嫌。先生には火影になって欲しくなかった。」


「 あ り が と う 。 」


 彼はひどく驚いた顔をしていた。もう私は彼の顔すら見れなくなって地面を見た。彼の影は私の影と重なることができるのに私の思いが重なることはない。そんな事を考えているとどうにもこうにもできないものが私の中でよぎった。とっさに目を押さえた。泣くもんか。この涙はもっと後にするんだと。


「おめでとうを言われたのも確かに嬉しかったけどに言われた言葉も嬉しかった。」


 理解だけは人一倍しているつもりだった。頭の中でそれを何百何千何万と自分に言い続けていた。だから、何があってもそれは私が飲み込むことでしか解決策は得られない。私の顔を覗きこんだ彼のおでこにキスをした。もうこの気持ちを言葉にして彼に伝えることなどもうできない。そう思ってしまったから。ひどくませた子供でも、それでもいい。


、ありがとう。」


 彼は私の額の髪をかきあげてキスをした。ほんの少しだけ彼の手が震えていた。不可解なその一つ一つが私を動かした。


「途中まで一緒に帰ろうか。」


「先生、手つないでもいい?」


「どうぞ。」


 きっとこれから先、いろいろなことがあって私は忘れなくてはいけないことがたくさん増えていくんだろう。でもどんなに辛いと思ってもこの人の全てを忘れない。そう思った。