彼がもう卒業するという頃に私は彼が虐められてるのを見てしまった。その場に走っていくと彼らは逃げて一人ぽつんとそこに残っていた。顔は傷だらけで腕は赤くはれ上がっていた。それを見て私はその場でみっともなく大泣きしてしまった。
なかなか泣き止まない私を彼はどうしようもないと思ったのか、私の家まで送ってくれた。そしてそのケガを見た母は当然のように彼を手当した。そのあと母が作ったケーキを彼は食べさせられていた。私は食べたくなくて呆然としてるのを母は笑って見ていた。
次の日、学校に行くと彼の卒業の日程が決まっていて昨日のあの数人の行動の原因に子供ながらにああ、と人事の様に思ったのを覚えている。
「どうして誰も呼ばなかったの?」
「呼んでどうにかなったなら呼んでいたよ。」
放課後の誰もいない教室でその言葉に悲しさも怒りも覚えてまた、私は泣きそうになった。可哀想な人だと思った。彼の目には誰も映っていない。そう思ったのはしばらくして私がアカデミーを卒業して皆と一緒に辿った道の上からだった。
「今、泣かれると俺が泣かせたみたいで困るよ。」
「昨日ありがとう。それが言いたかったの。」
「どういたしまして。」
アカデミーを出ると私とは正反対の方向へ歩き始めた。その後は一言「卒業おめでとう。」とだけ私は言葉を残した。そこで彼の存在は間接的に消えた。
記憶は本当に美しく私に見せてくれる。私がアカデミーを卒業し、再度彼に会ったときはもう彼はとてつもなく遠い人に見えた。
そして彼がどれほどの重荷を負う人かどうでもいい程世間ではその手の話しは関係のない大人達が討論しているのをよく聞くようになった。
ただ一つだけ変わらないことがある。彼の目はあまりに視力がいいから遠くを見る事を一切忘れて間近のものばかり見てしまった。そうして目がとてつもなく悪くなった。それは今も進行している気がした。私の中であのときから変わらない気持ちが大きく疼きはじめた。
「あの時は、が策略犯かと一瞬思ったよ。」
「残念だけど違うよ。」
そもそも、私が理解した事など本当に少なくてどうして私はこんなに彼を愛しく思うのだろうか。この何年間も考えた答えはココにあった。映ることなどなくていい。ただ一瞬でいい。本当の私を、見て欲しい。もう一度だけ彼の目が正常なものとなって私を見て。愛してると、嘘でもいいから聞かせて欲しい。愛している、とだけ。
「あまり無理しないでね。誰が何て言ってもあなたはあなたなんだから。」
「ありがとう。」
彼の笑った顔はどうしようもなく愛しい。愛しくてたまらない。どうしようもない程に私は彼を愛している。あの日からもっと前からずっと。目の前がやけに暗色で、暖かいと思ったら、私は彼の腕の中にいた。傷つけないようにできるだけそっとそっと私は、手を伸ばした。
「、俺は」
|