01.マドンナ



「そういえばさんの彼氏死んだって。」

「ホントかよ。」

「俺うわさで。」

俺は結局何も知らずに何も解らずにいただけだった。
横でしゃべっている奴等の声の中に間違い無く今、が出てきた。
どうして自分の知らないことを他人は知ってるんだろう。
どうして一番に言いたい言葉を一番に届けてやれないんだろうか。


。」

「どうしたの?」

「あのさ・・・」

ニコッと笑って横の女友達に別れを告げた。
その女は俺に頭を下げてどこか避けるように遠ざかっていった。
「後でね。」とその子に声をかけるを今でもいいやつだと思う。
変わらないこいつに変わった事は恋人がいなくなったことぐらいだった。

「どうしたの?」

「元気そうだな。」

「うん」

言葉に詰まる。

「なに?なんか悪いことしたの?」

みっともないのは自分じゃないか。

あいつが死んだって聞いたから。」

「そう。」

「・・・悪い。」

笑って言った。

「檜佐木君があやまることないよ。ありがと。心配してくれて。」

なんて言ったらいいかわからなかった。
無理をしているようにも見えない。
本当に吹っ切れたようにしか見えない。
もしくはそのうわさ自体がウソだったのか。

「まだよく理解できてないだけ。なんかバカよね。本当に。」

「そんなことない。」

「もう行くね。」

彼女が笑ったのは自分にじゃない。まだいると信じる自分にだ。
彼女の後姿は学生時代と同じくらい小さかった。

。」

「何?」

「無理すんなよ。」

あの笑い方だ。俺の好きな笑い方だ。
笑うんだけど上品で、他の女子とはいつだって比べものにならないあの笑い方。
キレイだと思っていつも見ていた笑い方だ。

「ありがとう。」

そもそも、知るはずもなかったんだから。
知り合ってからの時間は短かったけれども。
名前ぐらいはお互い知っていた。(と思う。)
学生時代、俺には好きな人がいてあいつにも好きな人がいた。

彼女が笑うと、嬉しかった。
彼女は俺のマドンナだった。



(H) (N→)