02.横顔
「檜佐木、お前は剣だけじゃだめだぞ。」
「はい。」
「お前と正反対の奴がいてなぁ。って言うんだけどな。」
「・・・。(俺はバカだと?)」
「剣はうまくないのに勉強だけはずば抜けてる。」
珍しい奴もいたもんだと思った。 その時は。
「。」
「・・・何?」
どいつもこいつも見るたびに引いて面白くない。
女なら特にそうだ。
「先生が呼んでたぞ。」
「ありがとう。」
笑って女友達に行って来るねとつげた。
俺は元の席に戻って(つまんねぇな)と思っていた。
教室に戻ってきた彼女はこっちへ来た。
そうして隣に何気なく座った。
昔からの友達で、赤ん坊の時から一緒にいるような感じだった。
「檜佐木君さっき先生に"勉強頑張れ"って言われたでしょ?」
「なんでおまえ・・・言われてねぇよ。」
「先生が言ってたよ。」
「それだけ。」
そうして椅子から立ち上がるとさっきの女友達のところに戻ってキャッキャと話をする。
(頭いい奴ってあいつなのか。)
卒業が間近な時期になると必ず決まって作文を書く事になる。
その作業が嫌で嫌で仕方がない。俺は厄介な荷物を引きずった。
漢字だってまともに出てこないのに。もっと勉強しておくんだったと後悔した。
(あいつ本当に頭いいのか?)
「。」
彼女も卒業に向けて頑張っているところだった。
「作文さ見てくれね?」
「いいけど。」
「悪いな。」
まわりに人がいなかったから、隣の椅子に座った。
いつもの女友達がいない。
そしていつもまわりにいるやつらはことごとくいない。
「お前は、どこ?」
「忘れた。」
執着心と向上心のない奴だと思った。
「ウソ。四番隊。本当にちょっと前に決まってほっとしてる。」
横顔が、何か直感的に感じた。 長い髪が邪魔をしていたけど。
「檜佐木君。ここ間違ってる。」
「暑くね?」
「作文。」
コツコツと指で机をはじいた。 いい音がする。
俺がしぶしぶ直してるのを見ると 「そんなに作文が嫌い?」
「別に。」 ただそう言った。
何度も注意されては直してその繰り返し。
ときどき自ら筆をとって教えてくれたこともあった。
「そんなに、私が嫌い?」
「別に。」
「不満でしょ。私が勉強できるって知って。」
「おまえ、そう思ってんのは俺だけじゃないぜ?」
「知ってるよ。」
声がキーンと届く。
大きい声でもない。
小さい声でもないけれど。
「知ってるよ。言われなくても。檜佐木君だってそうだよ。」
「知ってる。」
急に立ち上がったかと思ったら教室を出て行った。
今 に も 泣 き そ う な 顔 を し て い た 。
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