12.泣かない朝も
「あの子可愛かったなぁ。」
俺は、この男を見た時に悪寒が走った。を連れて行った男だ。変な汗が流れる。この男の言葉からして俺を覚えているらしい。しばらく何も言われなかったから覚えていないのだろうと思ったがやっぱり覚えていたらしい。
「あの水色のワンピースの子さ、俺が送届けたんだよ。まさかお前に当たるとは俺も思いもしなかったわけだよ。」
「俺だって思いもしなかった。」
「あの子はここにいるよりも幸せなところにいけたと思うけどな。」
俺はその男が本当に嫌いだ。俺はこれから先、何年間こいつと顔をあわせるんだろう。何よりも弱みを握られている気がして気持ちが悪い。こいつはあの教師のようじゃないと思った。たぶんこいつは敵にだけはまわしたらいけない人間だと思った(というかなら絶対そう言うと思う)。
「あの子がどうしてあの里に行ったか知ってるか?」
「それなりに。」
「突然の不幸で子供をなくした夫婦の子供にそっくりだって言うから。断ろうと思えば断れただろうにね。何も言わなかったよ。しばらく黙ってから"ぜひ一緒に暮らしたい"ってさ。でもあの子目に涙ためてさ、嫌だったんだろうね。本当は。」
隣を見ると何もなかった。いつでも側にいたあいつは今何をしてるんだろう。俺はあいつのいなくなった半年後に卒業した。そうして今は下忍になった。半年間は俺にとっては永遠のように長かった。こいつらといて何かをしていると時間つぶしにはなった。俺の中のあいつを埋められるものなんかどこにもない。目の前に広がる空虚な世界。
「あんた、何が言いたいんだ?」
「お前は、バカで愚か者だな。くだらない。」
その言葉に対して俺は憤りを覚えた。どうしたらいいのか、わからなかった。その男は3分足らずの会話で俺をくだらない人間だと言い放った。俺は一人で地面の草をむしった。あいつらの輪の中に入るなんてできない。しかもこれが任務だって?それは、あいつが見たら笑うだろうな。俺だって笑ってやる。で も こ こ に あ い つ は い な い 。
そう思ったら目の前が一瞬にして色を失った。おかしい。目の前にあるものが白と黒が混ざり作り出すグレースケールで色のあった緑でさえも今は灰色だ。 「 帰 っ て 来 い 。 」 どうしようもなくそう思った。
家に帰ると一通の手紙が届いていた。住所は書いていない。名前はと書いてあった。立ちの悪いイタズラだ。ビリビリと封筒を開けるとそこには見慣れた文字で長い手紙が書かれていた。読んでいくと目の前がほんの少しずつ明るくなった。手紙を書こう(永遠に届くことはない)。この半年間にあった全てを。そうしてもう一度だけ約束をしよう。
「随分ましな顔になったな。」
「あんたのその曲がった根性よりはましだ。」
この男は俺の顔を見て笑った。それを睨みつけた。それをサラっと流して向こうへ行った。
俺の中のあいつを埋められるものなんかどこにもない。それだけは何よりも確かな事だ。でも、俺があいつにいつか会いに行くことならできる。俺はようやくの言った一つ一つの言葉の真意を理解することができた。それから何ヶ月たってもあの男の口から"水色のワンピースの子"の話が俺の耳に聞こえる事は一切無くなった。
(赤い花伝説って本当にすごいなぁ。)