04.言わないで
「檜佐木君。」
彼女にビックリしたのはこれで2回目だ。
「ビックリした?」
「ああ。」
このとき思っていた。間違いなく彼女は自分のものになる。してみせる。
彼女を縛っているものは何もない。絶対に。
間違っていない。自分なら彼女を幸せにしてやれる。
「、俺さ。」
思っているのに、言葉が出てこない。
目の前にいるのは間違いなくだ。
「こうやって話してると、あの時みたいだよね。」
「・・・そうだな。」
「檜佐木君、ガムあげる。」
薄い板状のガム。
取り出そうとすると、指先に痛みが走った。
「って!?は?何これ?」
「引っかかってくれてありがとう。5人目だよ。」
「はは・・・」
「これ絶対、檜佐木君にしようと思ってた。」
変わらない。そうして本物のガムを出した。
薄っぺらいい板状の緑色の包みの甘い匂いがするガム。
そうしてこっちに差し出した。
「ハイ、これはお詫びのしるし。あと5枚残ってるんだ。誰にしよう。」
その薄っぺらいガムを受け取った。
今までたったの一度でもこんな気持ちになっただろうか。
が少しだけ笑っている。そうしてすっと普通の顔になった。
この空間は静かだった。言葉が出た。ようやく。
「、好きだ。」
その顔から出た言葉は強く、彼女の言葉とは思えなかった。
「言わないで。」
今までたったの一度でもこんな気持ちになっただろうか。
否定された。まっすぐに。
「あの日、檜佐木君は嬉しそうだった。確かに悲しそうだったけど。」
( 何 も か も ば れ て い る 。 )
「今の私には檜佐木君が私の不幸を喜んでるようにしか見えない。」
( ヤ バ イ 。 気 持 ち が 悪 い 。 )
「檜佐木君のことは好きだけど、好きじゃない。ごめん。」
その声は小さくも大きくもなく耳の中に残った。
すっと、染み付いていく。
そうして、遠くなってくを見て取り返しのない事をした気がした。
ちがう気がしたんじゃない。取り返しのつかないことになったんだ。
例えば100回謝ったって許してくれないだろう。
まだは、あの男が好きなんだ。
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